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宇部市民オーケストラ 第八回定期演奏会に寄せて −その二
フィンランドの大作曲家シベリウス                           

 シベリウス(一八六五〜一九五七)は二十世紀最大の交響曲作家であると言われている。作曲された八つの交響曲はいずれも傑作の名が高い。今回は最もポピュラーな第二番が演奏される。初期の作品はベルリンとウィーンというドイツ音楽の二大中心地に留学したのちに書かれた。そのため、他国の国民楽派の先達と同様に、ドイツロマン派の流れと民族音楽を融合させたものが多い。しかし、その作風は異なっている。ロシアの五人組やチェコのドヴォルザークが郷土の生の民謡を題材として取り入れたのに対し、彼は民謡そのものは使わずにフィンランドの歴史、自然、民族精神から発想した旋律やオーケストレーションを用いた。その深く緻密な構想は当時の後期ロマン派特有の賑やかで華麗なオーケストラ用法を必要としなかった。二管編成程度の節約された編成にもかかわらず北欧特有のスケールの大きい表現には何ら不足はない。
 第二交響曲の初演は、一九〇二年、ヘルシンキにおいて作曲者自身の指揮で行われた。当時ロシアの支配下にあった国民は独立の悲願達成に重ね合わせて熱狂的に歓迎した。曲は伝統的な四つの楽章に、調性のはっきりしたロマン的な楽想が盛られている。第一交響曲の主題がロシア的、チャイコフスキー的だったのに対し、第二番ではずっとフィンランド的で生き生きとその風土、自然を反映させている。
 第一楽章。弦楽器の刻むゆったりとしたリズムに乗って、素朴な民謡ふうの第一主題がクラリネットとオーボエによって奏される。第二主題はいかにもシベリウスらしい豪快な旋律である。第二楽章。一篇の交響詩を思わせる。フィンランドの深い森と湖の情景が浮かんでくるようだ。第三楽章。荒々しい弦のリズムの上に軽やかな木管の調べがくり広げられる。中間部の憂いに満ちた甘美な調べが印象的である。その美しい調べが高まって終楽章になだれ込むが、これはベートーヴェンの運命交響曲のパターンである。第四楽章。主題は「勝利の讃歌」と呼ぶ人もいるほど堂々と、この力作を飾るにふさわしい。フィナーレは壮麗で雄渾に盛り上がる。そして悠然たる気分のうちに終わる。
 指揮は田中良和氏である。氏は一九八〇年芸大を卒業後、ベルリン芸術大学に留学。ベルリン放送交響楽団の指揮でデビュー、十六年間ベルリンを拠点に活躍した。帰国後はN響をはじめ内外のオーケストラを指揮して現在に至っている。

氏は、今回、宇部市民オーケストラ会報委員のインタービューに答えて次のように語っている。「ご存じだと思いますが、私の恩師、渡邊暁雄はお母様がフィンランドの方でした。世界で初めてシベリウスの交響曲全集をレコーディングされたのも渡邊先生でした。学生時代から先生のフィンランドの心のような何かを近くで触れさせていただいていた私としては、シベリウスはかなり近くにいる作曲家でした。後年フィンランドを訪れ、実際に空気や人に触れるにつけ、フィンランドやシベリウスが大好きになりました。一言で言うと、音楽の歴史もそれほどない国から突然現れた唯一無二の大作曲家です。『僕の国は寒くて、人もあまり住まないけど、森とか湖とかとても美しい自然に囲まれた素晴らしい国なんだよ』というメッセージが、全ての曲に含まれています・・。」そのメッセージが皆様に伝わることを心から願っている。
 ちなみに、田中氏を私どもに推薦したのは石井啓一郎氏である。氏は恒例の日本フィルハーモニー九州公演が終了する二月十九日に私どもの練習に駆けつけてくださることになっている。渡邊氏のシベリウス交響曲全集録音を担当したオーケストラは二度とも日フィルだが、石井氏はコンサートマスターとして理事としてレコーディングに関わった。その貴重な体験を私どもに伝えようとしておられる。ありがたいことである。

宇部市民オーケストラ 団長 佐藤育男 (2006年2月11日 宇部日報掲載記事)

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