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宇部市民オーケストラ 第八回 クラシックの午後―気軽にオーケストラ演奏会に寄せて ―その一   モーツアルトの協奏曲雑感

宇部市民オーケストラは、来る九月三日、渡邊翁記念会館で第八回目のクラシックの午後―気軽にオーケストラ演奏会を開く。曲目は、モーツアルトの「後宮からの逃走」序曲、フルートとハープのための協奏曲、ボロディン作曲、交響詩「中央アジアの草原にて」そしてムソルグスキー作曲・ラベル編曲、組曲「展覧会の絵」の四曲である。

今年はモーツアルト生誕二五〇年にあたる。そのため宇部市民オーケストラも三月の第八回定期演奏会では喜多村裕美氏(防府市在住)を迎えてピアノ協奏曲第二四番を演奏した。今回も前半のステージはモーツアルトの二曲でお楽しみ戴きたい。

一曲目は序曲「後宮からの逃走」K三八四である。題材がトルコのハーレムという異国情緒たっぷりの上、曲の美しさとあいまって大成功を収めた。このオペラはドイツ語で歌われるのでジングシュピーゲル(歌芝居)と呼ばれている。後年の「魔笛」やベートーベンの「フィデリオ」、ウェーバーの「魔弾の射手」などドイツオペラの先駆的作品である。当時、トルコはコーヒーをはじめさまざまな東方文化をヨーロッパにもたらした。トルコ軍楽もその一つで、当時の音楽家はひろくこれを取り入れた。楽器編成はピッコロ、シンバル、トライアングル、太鼓、鈴などで、リズムに特徴がありソフィアンと呼ばれていた。四拍子であるが、ジルと呼ばれるシンバル(・・銘器ジルジャンの由来はこのジルという名称からきているであろうか?)を三回叩いてそのあとシンバルを大きく広げて一拍休む。兵隊の行進もこれに合わせて三歩進んで、次の一拍は右か左に体を大きく傾けてリズムを取る。このリズムが「トルコ行進曲」の原型と言われている。モーツアルトやベートーベンのトルコ行進曲もこのリズム形式である。彼はバイオイリン協奏曲第五番「トルコ風」にも、ベートーベンは「ウェリントンの勝利」や「第九」に、ブラームスも「大学祝典序曲」に用いている。

初演は一七八二年七月、モーツアルト二六才のときで前述したように大成功を収めた。前年、大司教コロレドと決裂しザルツフルグと絶縁した彼は、独立して作曲に専念した結果がこのオペラに出ている。この年を境に作品への集中力や豊かさが増している。もう一つの重要な点は、父親レオポルドとも精神的に決別したことである。翌八月には父の許しが得られないままコンスタンツエと結婚した。このオペラの愛の歌が美しいのもそのせいであろう。そして、このあとハフナー交響曲K三八五、ハイドンセット最初の弦楽四重奏曲ト長調K三八七など、あらゆるジャンルで傑作が生まれた。

二曲目のフルートとハープのための協奏曲K二九九は、「後宮」の四年前の一七七八年に作曲された。この独奏楽器の珍しい組み合わせは、ある貴族からの注文だった。その貴族はフルートの名手で、ハープを弾く令嬢の結婚を記念して依頼したものだった。この頃のモーツアルトの協奏曲にはまだ、独奏楽器が前面に出て華やかで社交的・娯楽的な曲が多い。しかしフルートやハープは楽器としての性能が未発達だったせいもあるが、彼の手紙にあるように、「むずかし過ぎもせず、やさし過ぎもせず、まさにその中間のものです・・非常に華やかで、聴いていて気持ちよく・・もちろん空虚に陥らず・・いたるところで識者を満足させることができ・・通でない人もなぜかわからないまま満足してしまうようなもの・・」だった。モーツアルトはこれら独奏楽器としてはまだ完全ではない二つの楽器を使って、技巧を凝らさなくても演奏効果が上がるような、サロン向けの音楽としては最高傑作に仕上げている。第一楽章。アレグロ。ハ長調。華やかで壮麗。深刻さはない。第二楽章。アンダンティーノ、ヘ長調。典雅で牧歌風。第三楽章。ロンド、アレグロ、ハ長調。力強く弾んで華やか。真に楽しい音楽が奏でられる。

指揮はN響オーボエ首席奏者の茂木大輔、フルート独奏は石井陽子、ハープ独奏は御手洗えまの諸氏である。皆様ご存知の茂木氏は、国立音大卒業後ミュンヘン国立音大、シュトウットガルトフィルハーモニー、バッハ・コレギウムで活躍、ドイツ古典の演奏で名高い。最近は指揮でも大いに活躍中。執筆者としてもジョークの効いた楽しい文章で、「オーケストラは素敵だ」など十冊以上の著書がある。一方、独奏者はいずれも若い女性演奏家で、御手洗さんは桐朋学園大学研究科を卒業後、英国のロイヤル・ノーサン・カレッジ・オブ・ミュージック・マンチェスターで研鑽を積んだ。母親はバイオリン奏者の御手洗美代子氏(下関市在住)。石井さんは芸大在学中から演奏活動を開始、卒業後もピアノの大家イエルク・デムスとジョイントリサイタルを開くなど活発な活動を行っている。ご両親はお馴染みの石井啓一郎、啓子氏である。どうかご来場の上、ギャラントな協奏曲をお楽しみ戴きたい。

宇部市民オーケストラ 団長 佐藤育男 (2006年8月 宇部日報掲載記事)

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